Johnstoneのカバレッジと誘導されるGrothendieck位相、および層の圏の同値性に関する完全な解説
1. 基本概念の準備と定義
以下、$\mathcal{C}$ を任意の圏とする。まず、Grothendieck位相を定義するための基礎となるsieve(ふるい)の概念を定義する。
圏 $\mathcal{C}$ の対象 $U$ 上の sieve(ふるい) $S$ とは、余域 (codomain) が $U$ であるような射のクラスであって、次の右イデアル的な性質を満たすもののことである:
$$ f \in S \implies \text{任意の合成可能な射 } g \text{ に対して } f \circ g \in S $$
対象 $U$ を余域とするすべての射の集合を $t_U$ と書き、これを $U$ 上の最大sieveと呼ぶ。
$U$ 上の sieve $S$ と、任意の射 $g: V \to U$ に対し、 $S$ の $g$ に沿った引き戻しsieve (pullback sieve) $g^*S$ を次のように定義する:
$$ g^*S = \{ h \mid \operatorname{cod}(h) = V \text{ かつ } g \circ h \in S \} $$
この $g^*S$ が実際に $V$ 上の sieve になることを確認することは容易である。なぜなら、$h \in g^*S$ かつ $k$ が $h$ と合成可能(すなわち $\operatorname{cod}(k) = \operatorname{dom}(h)$)であるとき、 $g \circ (h \circ k) = (g \circ h) \circ k$ であり、 $g \circ h \in S$ かつ $S$ が sieve であることから $(g \circ h) \circ k \in S$ となり、したがって $h \circ k \in g^*S$ となるからである。
圏 $\mathcal{C}$ 上の
Johnstoneのカバレッジ (coverage) $T$ とは、各対象 $U \in \mathcal{C}$ に対し、 $U$ を余域とする射の族の集合 $T(U)$( $T(U)$ の元を被覆族と呼ぶ)を割り当てる規則であり、次の
分解条件 (coverageの公理)を満たすものである:
任意の被覆族 $\{f_i: U_i \to U\}_{i \in I} \in T(U)$ と、任意の射 $g: V \to U$ が与えられたとき、ある被覆族 $\{h_j: V_j \to V\}_{j \in J} \in T(V)$ が存在して、各 $j \in J$ に対して、ある $i \in I$ と射 $k: V_j \to U_i$ が存在し、次の図式を可換にする:
$$ g \circ h_j = f_i \circ k $$
圏 $\mathcal{C}$ 上のカバレッジ $T$ から
誘導されるGrothendieck位相 $J$ とは、各対象 $U \in \mathcal{C}$ に対し、 $U$ 上の sieve の集合 $J(U)$ を、次の2つの生成規則を満たす
最小の集合の族として定義したものである:
- (生成規則 A) 最大sieve $t_U$ は $J(U)$ に属する。
- (生成規則 B) ある被覆族 $\{f_i: U_i \to U\}_{i \in I} \in T(U)$ が存在し、 $U$ 上の sieve $S$ が、すべての $i \in I$ について $f_i^*S \in J(U_i)$ を満たすならば、 $S \in J(U)$ である。
2. Grothendieck位相の公理の完全な証明
このように定義された $J$ が、実際にGrothendieck位相の3つの公理(最大性、引き戻し安定性、推移律)を満たすことを、一切の省略なしに完全に証明する。 $J(U)$ が「生成規則AおよびBを満たす最小の集合」であるため、 $S \in J(U)$ に関する構造的帰納法(生成に関する帰納法)が適用できる。
上記のように定義された $J$ は、次のGrothendieck位相の公理を満たす:
- 最大性 (Maximality): 任意の対象 $U \in \mathcal{C}$ に対し、 $t_U \in J(U)$ である。
- 引き戻し安定性 (Stability): $S \in J(U)$ ならば、任意の射 $g: V \to U$ に対し、 $g^*S \in J(V)$ である。
- 推移律 (Transitivity): $S \in J(U)$ であり、 $R$ が $U$ 上の sieve とする。任意の $f \in S$ に対して $f^*R \in J(\operatorname{dom}(f))$ が成り立つならば、 $R \in J(U)$ である。
(1) 最大性 (Maximality) の証明:
生成規則Aの定義そのものにより、任意の対象 $U$ について $t_U \in J(U)$ であることが直接従う。
(2) 引き戻し安定性 (Stability) の証明:
$S \in J(U)$ に関する構造的帰納法によって証明する。示すべき主張を $P(S) \iff \lceil \text{任意の射 } g: V \to U \text{ に対して } g^*S \in J(V) \rfloor$ とおく。
(Case 1) $S$ が生成規則Aによって生成された場合、すなわち $S = t_U$ のとき:
任意の $g: V \to U$ をとる。このとき $g^*t_U = t_V$ となる。なぜなら、 $h \in g^*t_U \iff g \circ h \in t_U$ であり、 $\operatorname{cod}(h) = V$ である任意の射 $h$ について $g \circ h$ の余域は $U$ となるため、 $g \circ h \in t_U$ は常に真だからである。生成規則Aより $t_V \in J(V)$ なので、 $g^*t_U \in J(V)$ となり、 $P(t_U)$ は真である。
(Case 2) $S$ が生成規則Bによって生成された場合:
ある被覆族 $\{f_i: U_i \to U\}_{i \in I} \in T(U)$ が存在して、すべての $i \in I$ について $f_i^*S \in J(U_i)$ が成り立っている。帰納法の仮定より、各 $i \in I$ について $P(f_i^*S)$ は真である。すなわち、任意の射による $f_i^*S$ の引き戻しは再び $J$ に属する。
ここで、任意の射 $g: V \to U$ をとる。カバレッジ $T$ の分解条件により、被覆族 $\{f_i\}_{i \in I}$ と射 $g$ に対し、ある被覆族 $\{h_j: V_j \to V\}_{j \in J} \in T(V)$ が存在して、各 $j \in J$ に対し、ある $i(j) \in I$ と射 $k_j: V_j \to U_{i(j)}$ が存在し、 $g \circ h_j = f_{i(j)} \circ k_j$ を満たす。
各 $j \in J$ について、sieve $h_j^*(g^*S)$ を考える。引き戻しsieveの定義から、任意の射 $l$ に対し、
$$ l \in h_j^*(g^*S) \iff h_j \circ l \in g^*S \iff g \circ h_j \circ l \in S $$
$$ \iff f_{i(j)} \circ k_j \circ l \in S \iff k_j \circ l \in f_{i(j)}^*S \iff l \in k_j^*(f_{i(j)}^*S) $$
が成り立つ。したがって、集合として $h_j^*(g^*S) = k_j^*(f_{i(j)}^*S)$ である。
帰納法の仮定 $P(f_{i(j)}^*S)$ より、射 $k_j$ による引き戻し $k_j^*(f_{i(j)}^*S)$ は $J(V_j)$ に属する。ゆえに、すべての $j \in J$ について $h_j^*(g^*S) \in J(V_j)$ が成り立つ。
ここで、 $\{h_j\}_{j \in J} \in T(V)$ は被覆族であるから、sieve $g^*S$ に対する生成規則Bの前提条件が満たされ、 $g^*S \in J(V)$ が従う。
したがって $P(S)$ は真である。構造的帰納法により、すべての $S \in J(U)$ について引き戻し安定性が示された。
(3) 推移律 (Transitivity) の証明:
$S \in J(U)$ に関する構造的帰納法によって証明する。示すべき主張を $Q(S) \iff \lceil \text{任意のsieve } R \text{ on } U \text{ に対し、}(\forall f \in S, f^*R \in J(\operatorname{dom}(f))) \implies R \in J(U) \rfloor$ とおく。
(Case 1) $S$ が生成規則Aによって生成された場合、すなわち $S = t_U$ のとき:
$R$ を $U$ 上の任意の sieve とし、任意の $f \in t_U$ に対して $f^*R \in J(\operatorname{dom}(f))$ であると仮定する。恒等射 $\operatorname{id}_U$ は余域が $U$ であるため $t_U$ に属する。したがって仮定より $\operatorname{id}_U^*R \in J(U)$ である。ここで $\operatorname{id}_U^*R$ の定義を確認すると、
$$ \operatorname{id}_U^*R = \{ h \mid \operatorname{cod}(h) = U \text{ かつ } \operatorname{id}_U \circ h \in R \} = \{ h \mid \operatorname{cod}(h) = U \text{ かつ } h \in R \} = R $$
となる。ゆえに $R \in J(U)$ が成り立ち、 $Q(t_U)$ は真である。
(Case 2) $S$ が生成規則Bによって生成された場合:
ある被覆族 $\{f_i: U_i \to U\}_{i \in I} \in T(U)$ が存在して、すべての $i \in I$ について $f_i^*S \in J(U_i)$ が成り立っている。帰納法の仮定より、各 $i \in I$ について $Q(f_i^*S)$ は真である。
$R$ を $U$ 上の任意の sieve とし、任意の $f \in S$ に対して $f^*R \in J(\operatorname{dom}(f))$ が満たされていると仮定する。このとき $R \in J(U)$ を導くために、各 $i \in I$ に対する sieve $f_i^*R$ を考える。
$f_i^*S$ の任意の元 $k: W \to U_i$ をとる。引き戻しsieveの定義より、 $f_i \circ k \in S$ である。大元の仮定( $S$ の任意の元に対する引き戻しが $J$ に属する)を射 $f_i \circ k$ に対して適用すると、 $(f_i \circ k)^*R \in J(W)$ が得られる。
引き戻し安定性の証明中で示した引き戻しの結合性を用いると、 $(f_i \circ k)^*R = k^*(f_i^*R)$ であるため、 $k^*(f_i^*R) \in J(W) = J(\operatorname{dom}(k))$ となる。
これは、「 $f_i^*S$ の任意の元 $k$ に対して、 $k^*(f_i^*R) \in J(\operatorname{dom}(k))$」が成り立つことを意味している。
ここで帰納法の仮定 $Q(f_i^*S)$ を sieve $f_i^*R$ に対して適用すると、 $f_i^*R \in J(U_i)$ が得られる。
これがすべての $i \in I$ について成立するため、被覆族 $\{f_i\}_{i \in I} \in T(U)$ と sieve $R$ に対して生成規則Bを適用することができ、 $R \in J(U)$ が導かれる。
したがって $Q(S)$ は真である。構造的帰納法により、すべての $S \in J(U)$ について推移律が示された。
3. 具体例:超不連結コンパクトHausdorff空間の圏
位相空間 $X$ が超不連結 (extremally disconnected) であるとは、 $X$ の任意の開集合の閉包が再び開集合(したがってクロープン (clopen) )になることをいう。
超不連結コンパクトHausdorff空間と連続マップからなる圏を $\text{Extr}$ と表記する。
ここで、 $\text{Extr}$ には一般にファイバー積が存在しない。例えば、 $\text{CompHaus}$ においてファイバー積を構成した際、その位相的引き戻し空間は必ずしも超不連結にはならない。超不連結空間の極めて強力な性質として、次のGleasonの定理が知られている。
(Gleasonの定理)
コンパクトHausdorff空間の圏 $\text{CompHaus}$ において、射影的 (projective) な対象は超不連結コンパクトHausdorff空間に他ならない。さらに、任意のコンパクトHausdorff空間 $X$ に対し、ある超不連結コンパクトHausdorff空間 $E(X)$ と連続全射 $\pi: E(X) \to X$ が存在し、これを $X$ のGleason被覆 (Gleason cover) と呼ぶ。
この $\text{Extr}$ 上に、次のような規則 $T$ を導入する。
$S \in \text{Extr}$ に対し、 $T(S)$ を「 $S$ を余域とする有限個の射の族であって、結合的に全射 (jointly surjective) なもの(有限結合全射族)」の全体とする。すなわち、
$$ \{f_i: U_i \to S\}_{i=1}^n \in T(S) \iff \bigcup_{i=1}^n f_i(U_i) = S $$
この規則 $T$ は $\text{Extr}$ におけるJohnstoneのカバレッジの公理を満たす。
任意の対象 $S \in \text{Extr}$ 上の被覆族 $\{f_i: U_i \to S\}_{i=1}^n \in T(S)$ と、任意の射 $g: V \to S$ をとる。
圏 $\text{Extr}$ 内には直接のファイバー積が存在しない可能性があるため、一度包含圏 $\text{CompHaus}$ の中で各 $i=1, \dots, n$ に対するファイバー積(引き戻し空間)を構成する:
$$ W_i = V \times_S U_i = \{ (v, u) \in V \times U_i \mid g(v) = f_i(u) \} $$
$W_i$ はコンパクトHausdorff空間 $V \times U_i$ の閉部分空間であるため、再びコンパクトHausdorff空間である。自然な射影を $p_i: W_i \to V$ および $q_i: W_i \to U_i$ とすると、定義から $g \circ p_i = f_i \circ q_i$ が成り立つ。
元の族 $\{f_i\}_{i=1}^n$ が結合的に全射であるため、任意の $v \in V$ に対して $g(v) \in S$ であり、ある $i$ と $u \in U_i$ が存在して $g(v) = f_i(u)$ となる。このとき $(v, u) \in W_i$ であり $p_i(v, u) = v$ となる。したがって、族 $\{p_i: W_i \to V\}_{i=1}^n$ も $\text{CompHaus}$ において結合的に全射である。
しかし、 各 $W_i$ は必ずしも超不連結とは限らないため、 $\text{Extr}$ の対象ではない。ここでGleasonの定理を適用し、各 $W_i$ に対するGleason被覆 $\pi_i: E(W_i) \to W_i$ をとる。ここで $E(W_i) \in \text{Extr}$ であり、 $\pi_i$ は連続全射である。
新たに $\text{Extr}$ の射として、合成写像 $h_i = p_i \circ \pi_i : E(W_i) \to V$ および $k_i = q_i \circ \pi_i : E(W_i) \to U_i$ を定義する。
これらは $\text{Extr}$ の対象の間の連続写像であるため、 $\text{Extr}$ の射である。可換性について計算すると、
$$ g \circ h_i = g \circ p_i \circ \pi_i = f_i \circ q_i \circ \pi_i = f_i \circ k_i $$
となり、必要な可換図式を満たす。
最後に、族 $\{h_i: E(W_i) \to V\}_{i=1}^n$ が結合的に全射であることを示す。任意の $v \in V$ に対し、 $\{p_i\}_{i=1}^n$ の結合全射性から、ある $i$ と $w \in W_i$ が存在して $p_i(w) = v$ となる。さらに $\pi_i$ が全射であることから、ある $e \in E(W_i)$ が存在して $\pi_i(e) = w$ となる。このとき、
$$ h_i(e) = (p_i \circ \pi_i)(e) = p_i(w) = v $$
となる。ゆえに、族 $\{h_i\}_{i=1}^n$ は $V$ 上の有限結合全射族であり、 $\{h_i\}_{i=1}^n \in T(V)$ である。以上から、分解条件が満たされることが証明された。
$\text{Extr}$ 上のカバレッジ $T$ から誘導されたGrothendieck位相 $J(S)$ は、次のように特徴付けられる:
$$ R \in J(S) \iff \text{sieve } R \text{ が、ある有限結合全射族 } \{f_i: U_i \to S\}_{i=1}^n \in T(S) \text{ を部分集合として含む} $$
右辺の条件を満たす sieve の集合を $\tilde{J}(S)$ とする。 $\tilde{J}$ が生成規則AおよびBを満たす最小の集合の族であることを示せば、最小性から $J = \tilde{J}$ が従う。
(Step 1) 生成規則Aの確認:
恒等射のみからなる単元族 $\{\operatorname{id}_S: S \to S\}$ は有限結合全射族であるため $T(S)$ に属する。また、最大sieve $t_S$ は $S$ を余域とするすべての射を含むため、当然 $\{\operatorname{id}_S\} \subset t_S$ である。したがって、 $t_S \in \tilde{J}(S)$ であり、規則Aを満たす。
(Step 2) 生成規則Bの確認:
ある有限結合全射族 $\{f_i: U_i \to S\}_{i=1}^n \in T(S)$ が存在し、 $S$ 上の sieve $R$ が、すべての $i=1, \dots, n$ について $f_i^*R \in \tilde{J}(U_i)$ を満たしていると仮定する。
各 $i$ について $f_i^*R \in \tilde{J}(U_i)$ であることから、定義よりある有限結合全射族 $\{g_{ij}: W_{ij} \to U_i\}_{j=1}^{m_i} \in T(U_i)$ が存在して、 $\{g_{ij}\}_{j=1}^{m_i} \subset f_i^*R$ を満たす。
引き戻しsieveの定義から、これは任意の $j=1, \dots, m_i$ に対して $f_i \circ g_{ij} \in R$ であることを意味する。
ここで、射の有限族 $K = \{f_i \circ g_{ij} \mid i=1, \dots, n, \, j=1, \dots, m_i\}$ を考える。 $R$ が sieve であることから、各 $f_i \circ g_{ij} \in R$ より、 $K \subset R$ が成り立つ。
この族 $K$ の各元のドメインは $W_{ij} \in \text{Extr}$ であり、コドメインは $S$ である。 $K$ が $S$ 上の結合全射族であることを示す。任意の $s \in S$ をとる。 $\{f_i\}_{i=1}^n$ の結合全射性から、ある $i$ と $u \in U_i$ が存在して $f_i(u) = s$ となる。さらに、その $i$ に対する $\{g_{ij}\}_{j=1}^{m_i}$ の結合全射性から、ある $j$ と $w \in W_{ij}$ が存在して $g_{ij}(w) = u$ となる。このとき、
$$ (f_i \circ g_{ij})(w) = f_i(g_{ij}(w)) = f_i(u) = s $$
となる。したがって、有限族 $K$ は $S$ 上の有限結合全射族であり、 $K \in T(S)$ を満たす。 $K \subset R$ かつ $K \in T(S)$ であるため、定義より $R \in \tilde{J}(S)$ となり、生成規則Bが満たされる。
最小性から $J(S) \subset \tilde{J}(S)$ である。
(Step 3) 逆向きの包含関係 $\tilde{J}(S) \subset J(S)$ の確認:
$R \in \tilde{J}(S)$ とすると、ある $\{f_i: U_i \to S\}_{i=1}^n \in T(S)$ が存在して $\{f_i\}_{i=1}^n \subset R$ となる。各 $i=1, \dots, n$ について引き戻しsieve $f_i^*R$ を考えると、 $f_i \in R$ であることから、恒等射 $\operatorname{id}_{U_i}$ は $f_i^*R$ に属する。 sieve の右イデアル性から、恒等射を含む sieve は最大sieveに一致するため、 $f_i^*R = t_{U_i}$ である。
生成規則Aより $t_{U_i} \in J(U_i)$ であるから、すべての $i$ について $f_i^*R \in J(U_i)$ となる。したがって、 $\{f_i\}_{i=1}^n \in T(S)$ に対して生成規則Bを適用することができ、 $R \in J(S)$ が得られる。
以上より、 $J(S) = \tilde{J}(S)$ が完全に示された。
4. 層の圏の定式化と定義
以下、 $P: \mathcal{C}^{\text{op}} \to \mathbf{Set}$ を圏 $\mathcal{C}$ 上の任意の反変関手(前層)とする。
- 被覆族上の整合族 (compatible family):
$\{f_i: U_i \to U\}_{i \in I}$ を $\mathcal{C}$ の射の族とする。この族上の $P$ の整合族とは、要素の族 $(x_i)_{i \in I}$(ただし各 $x_i \in P(U_i)$)であって、任意の対象 $V$ と、 $f_i \circ g = f_j \circ h$ を満たす任意の射 $g: V \to U_i$ および $h: V \to U_j$ に対し、常に次の条件を満たすものである:
$$ P(g)(x_i) = P(h)(x_j) \in P(V) $$
- Sieve上の整合族:
$S$ を $U$ 上の sieve とする。 $S$ 上の $P$ の整合族とは、要素の族 $(x_f)_{f \in S}$(ただし各 $x_f \in P(\operatorname{dom}(f))$)であって、任意の $f \in S$ と、合成可能な任意の射 $g: W \to \operatorname{dom}(f)$ に対し、常に次の条件を満たすものである:
$$ P(g)(x_f) = x_{f \circ g} \in P(W) $$
(なお、 sieve の定義から $f \circ g \in S$ である。)
Johnstoneのカバレッジに関する層の圏 $\text{Sh}(\mathcal{C}, T)$
前層 $P$ がカバレッジ $T$ に関する層( $T$層)であるとは、任意の対象 $U$ と、任意の被覆族 $\{f_i: U_i \to U\}_{i \in I} \in T(U)$ 、およびその上の任意の整合族 $(x_i)_{i \in I}$ に対し、ただ1つの要素 $x \in P(U)$ が存在して、すべての $i \in I$ について $P(f_i)(x) = x_i$ が成り立つことをいう。
$T$層とそれらの間の自然変換からなる充満部分圏を $\text{Sh}(\mathcal{C}, T)$ と定義する。
Grothendieck位相に関する層の圏 $\text{Sh}(\mathcal{C}, J)$
前層 $P$ がGrothendieck位相 $J$ に関する層( $J$層)であるとは、任意の対象 $U$ と、任意の被覆sieve $S \in J(U)$ 、およびその上の任意の整合族 $(x_f)_{f \in S}$ に対し、ただ1つの要素 $x \in P(U)$ が存在して、すべての $f \in S$ について $P(f)(x) = x_f$ が成り立つことをいう。
$J$層とそれらの間の自然変換からなる充満部分圏を $\text{Sh}(\mathcal{C}, J)$ と定義する。
5. 層の圏の同値性に関する厳密な証明
両者の層の圏が前層の圏 $\mathbf{PSh}(\mathcal{C})$ の充満部分圏として定義されているため、圏同値(実際には圏同型)であることを示すには、任意の固定された前層 $P$ に対し、 「 $P$ が $T$層である $\iff$ $P$ が $J$層である」を証明すれば十分である。この証明を完全に書き下す。
Grothendieck位相 $J$ がカバレッジ $T$ から誘導されたものであるとき、任意の $P \in \mathbf{PSh}(\mathcal{C})$ に対し、
$$ P \in \text{Sh}(\mathcal{C}, T) \iff P \in \text{Sh}(\mathcal{C}, J) $$
が成立し、したがって層の圏の間に圏同値 $\text{Sh}(\mathcal{C}, T) \simeq \text{Sh}(\mathcal{C}, J)$ が誘導される。
(I) $P \in \text{Sh}(\mathcal{C}, J) \implies P \in \text{Sh}(\mathcal{C}, T)$ の証明:
$P$ を $J$層とする。任意の対象 $U$ と、任意の被覆族 $\{f_i: U_i \to U\}_{i \in I} \in T(U)$ 、およびその上の任意の整合族 $(x_i)_{i \in I}$ をとる。
この被覆族が生成する sieve $S$ を次のように構成する:
$$ S = \{ f_i \circ g \mid i \in I, \, \operatorname{cod}(g) = U_i \} $$
この $S$ に対し、各 $i \in I$ について引き戻しsieve $f_i^*S$ を考えると、 $\operatorname{id}_{U_i} \in f_i^*S$ となるため、 $f_i^*S = t_{U_i}$ である。生成規則Aより $t_{U_i} \in J(U_i)$ であるから、すべての $i$ について $f_i^*S \in J(U_i)$ となり、生成規則Bより $S \in J(U)$ が成り立つ。
次に、 sieve $S$ 上の族 $(y_k)_{k \in S}$ を以下のように定義する: $k \in S$ に対し、 $k = f_i \circ g$ と表されるとき、
$$ y_k = P(g)(x_i) \in P(\operatorname{dom}(g)) $$
とする。これが well-defined であることを示す。もし $k$ が $k = f_i \circ g = f_j \circ h$ と2通りに表されたとする。 $(x_i)_{i \in I}$ は被覆族上の整合族であるため、整合族の定義から $P(g)(x_i) = P(h)(x_j)$ が成立する。したがって、 $y_k$ の値は表現の選び方に依存せず well-defined である。
さらに、 $(y_k)_{k \in S}$ が sieve $S$ 上の整合族であることを示す。任意の $k \in S$ と、合成可能な射 $h: W \to \operatorname{dom}(k)$ をとる。 $k = f_i \circ g$ と表すと、 $k \circ h = f_i \circ (g \circ h)$ である。定義から(および $P$ が反変関手であることから)、
$$ y_{k \circ h} = P(g \circ h)(x_i) = P(h)(P(g)(x_i)) = P(h)(y_k) $$
が成り立ち、確かに sieve 上の整合族の条件を満たす。
$P$ は $J$層であり、 $S \in J(U)$ であるから、 sieve 上の整合族 $(y_k)_{k \in S}$ を貼り合わせるただ1つの要素 $x \in P(U)$ が存在し、すべての $k \in S$ について $P(k)(x) = y_k$ を満たす。各 $i \in I$ に対し、 $f_i = f_i \circ \operatorname{id}_{U_i} \in S$ であるから、
$$ P(f_i)(x) = y_{f_i} = P(\operatorname{id}_{U_i})(x_i) = x_i $$
が成り立つ。
一意性を示すため、別の $x' \in P(U)$ もすべての $i \in I$ に対して $P(f_i)(x') = x_i$ を満たすと仮定する。このとき、任意の $k \in S$ ( $k = f_i \circ g$ )に対し、前層の関手性から、
$$ P(k)(x') = P(g)(P(f_i)(x')) = P(g)(x_i) = y_k $$
となる。 $S$ 上の整合族に対する貼り合わせの一意性から $x' = x$ が従う。よって、 $P$ は $T$層である。
(II) $P \in \text{Sh}(\mathcal{C}, T) \implies P \in \text{Sh}(\mathcal{C}, J)$ の証明:
$P$ を $T$層とする。証明を「分離性」と「貼り合わせの存在」の2段階に分けて行う。
ステップ1:分離性 (separatedness) の証明
まず、任意の対象 $U \in \mathcal{C}$ と $S \in J(U)$ に対して、$P$ が $S$ に関して分離的であることを示す。すなわち、次の命題 $Sep(S)$ が真であることを $S$ に関する構造的帰納法で証明する。
$$ Sep(S) \iff \lceil \text{任意の } x, y \in P(U) \text{ に対し、}(\forall k \in S, P(k)(x) = P(k)(y)) \implies x = y \rfloor $$
(Case 1) $S$ が生成規則Aによって生成された場合( $S = t_U$ ):
$\operatorname{id}_U \in t_U$ であるから、 $P(\operatorname{id}_U)(x) = P(\operatorname{id}_U)(y)$ となり、 $x = y$ である。よって $Sep(t_U)$ は真である。
(Case 2) $S$ が生成規則Bによって生成された場合:
ある被覆族 $\{f_i: U_i \to U\}_{i \in I} \in T(U)$ が存在し、すべての $i \in I$ について $f_i^*S \in J(U_i)$ であり、帰納法の仮定として各 $i \in I$ で $Sep(f_i^*S)$ が成り立つとする。
任意の $x, y \in P(U)$ をとり、すべての $k \in S$ に対して $P(k)(x) = P(k)(y)$ が成り立つと仮定する。
各 $i \in I$ を固定し、任意の $h \in f_i^*S$ をとる。引き戻しの定義より $f_i \circ h \in S$ であるから、仮定より
$$ P(f_i \circ h)(x) = P(f_i \circ h)(y) $$
が成り立つ。関手性からこれは $P(h)(P(f_i)(x)) = P(h)(P(f_i)(y))$ を意味する。
これが任意の $h \in f_i^*S$ で成立するため、帰納法の仮定 $Sep(f_i^*S)$ を $P(f_i)(x)$ と $P(f_i)(y)$ に適用することで、
$$ P(f_i)(x) = P(f_i)(y) $$
が得られる。これがすべての $i \in I$ について成り立つ。
ここで $\{f_i\}_{i \in I} \in T(U)$ はカバレッジの被覆族であり、$P$ は $T$層であるため、$T$層の分離性(一意性)から $x = y$ が従う。
以上により、すべての $S \in J(U)$ に対して $P$ は分離的である。
ステップ2:貼り合わせの存在 (gluing) の証明
次に、 $S \in J(U)$ 上の任意の整合族に対して、一意な貼り合わせが存在すること(命題 $W(S)$)を構造的帰納法で示す。
$$ W(S) \iff \lceil S \text{ 上の任意の整合族 } (x_k)_{k \in S} \text{ に対し、一意な } x \in P(U) \text{ が存在して } \forall k \in S, P(k)(x) = x_k \rfloor $$
(Case 1) $S$ が生成規則Aによって生成された場合( $S = t_U$ ):
$t_U$ 上の任意の整合族 $(x_k)_{k \in t_U}$ をとる。 $\operatorname{id}_U \in t_U$ であるから、 $x = x_{\operatorname{id}_U} \in P(U)$ とおく。任意の $k \in t_U$ に対し、 $\operatorname{id}_U \circ k = k$ である。 sieve 上の整合族の性質から、
$$ P(k)(x) = P(k)(x_{\operatorname{id}_U}) = x_{\operatorname{id}_U \circ k} = x_k $$
が成り立ち、 $x$ は貼り合わせの条件を満たす。
一意性についてはステップ1の分離性より従う。よって $W(t_U)$ は真である。
(Case 2) $S$ が生成規則Bによって生成された場合:
被覆族 $\{f_i\}_{i \in I} \in T(U)$ が存在し、すべての $i \in I$ について $W(f_i^*S)$ が成り立っていると仮定する。
$S$ 上の整合族 $(x_k)_{k \in S}$ をとる。各 $i \in I$ に対し、引き戻しsieve $f_i^*S$ 上の要素の族 $(y_{i, h})_{h \in f_i^*S}$ を $y_{i, h} = x_{f_i \circ h}$ で定義する。これが $f_i^*S$ 上の整合族であることは前述の証明と同様に確認できる。
帰納法の仮定 $W(f_i^*S)$ より、各 $i \in I$ に対して一意な $z_i \in P(U_i)$ が存在し、すべての $h \in f_i^*S$ に対して $P(h)(z_i) = y_{i, h} = x_{f_i \circ h}$ を満たす。
次に、この得られた族 $(z_i)_{i \in I}$ が被覆族 $\{f_i\}_{i \in I}$ 上の整合族であることを示す。 $f_i \circ g = f_j \circ w =: v : V \to U$ となる任意の $g: V \to U_i$ および $w: V \to U_j$ をとる。 $P(g)(z_i) = P(w)(z_j)$ を示したい。
引き戻しsieveの性質から、 $v^*S = g^*(f_i^*S) = w^*(f_j^*S)$ である。すでにGrothendieck位相の公理として引き戻し安定性を証明しているため、 $f_i^*S \in J(U_i) \implies g^*(f_i^*S) \in J(V)$、すなわち $v^*S \in J(V)$ である。
$v^*S$ の任意の元 $h: W' \to V$ をとる。 sieve の性質から $v \circ h \in S$ である。よって $g \circ h \in f_i^*S$ であり、 $z_i$ の定義から、
$$ P(h)(P(g)(z_i)) = P(g \circ h)(z_i) = x_{f_i \circ g \circ h} = x_{v \circ h} $$
が成り立つ。全く同様に、 $w \circ h \in f_j^*S$ であるから、
$$ P(h)(P(w)(z_j)) = P(w \circ h)(z_j) = x_{f_j \circ w \circ h} = x_{v \circ h} $$
が成り立つ。ゆえに、任意の $h \in v^*S$ に対し、
$$ P(h)(P(g)(z_i)) = P(h)(P(w)(z_j)) $$
が成立する。
ここで、ステップ1で証明した「すべての $J$被覆sieve に対する分離性」を $v^*S \in J(V)$ に対して適用する。これにより、 $v^*S$ 上ですべての引き戻しが一致する2つの要素は等しいことが厳密に保証されるため、
$$ P(g)(z_i) = P(w)(z_j) $$
が導かれる。したがって、 $(z_i)_{i \in I}$ は被覆族 $\{f_i\}_{i \in I} \in T(U)$ 上の整合族である。
$P$ は $T$層であるから、整合族 $(z_i)_{i \in I}$ に対し、一意な貼り合わせ $x \in P(U)$ が存在し、すべての $i \in I$ について $P(f_i)(x) = z_i$ を満たす。
最後に、この $x$ が元の整合族 $(x_k)_{k \in S}$ の $S$ 上での貼り合わせになっていることを示す。任意の $k \in S$ ( $k: W \to U$ )をとる。 $P(k)(x) = x_k$ を示したい。
被覆族 $\{f_i\}_{i \in I} \in T(U)$ と射 $k: W \to U$ に対し、カバレッジ $T$ の分解条件を適用すると、ある被覆族 $\{m_j: W_j \to W\}_{j \in J} \in T(W)$ が存在して、各 $j \in J$ に対し、ある $i(j) \in I$ と射 $l_j: W_j \to U_{i(j)}$ が存在し、 $k \circ m_j = f_{i(j)} \circ l_j$ を満たす。
$k \in S$ であり、 $S$ は sieve であるから、右イデアル性より $k \circ m_j \in S$ である。したがって、 $f_{i(j)} \circ l_j \in S$ となり、引き戻しの定義から $l_j \in f_{i(j)}^*S$ が成り立つ。
各 $j \in J$ について、 $P(m_j)(P(k)(x))$ を計算する:
$$ P(m_j)(P(k)(x)) = P(k \circ m_j)(x) = P(f_{i(j)} \circ l_j)(x) = P(l_j)(P(f_{i(j)})(x)) = P(l_j)(z_{i(j)}) $$
(ここで最初の等号は $P$ が反変関手であることによる。)
ここで $l_j \in f_{i(j)}^*S$ であるから、 $z_{i(j)}$ の定義より $P(l_j)(z_{i(j)}) = x_{f_{i(j)} \circ l_j}$ である。 $(x_k)_{k \in S}$ は sieve 上の整合族であるから、
$$ x_{f_{i(j)} \circ l_j} = x_{k \circ m_j} = P(m_j)(x_k) $$
が成り立つ。したがって、すべての $j \in J$ について、
$$ P(m_j)(P(k)(x)) = P(m_j)(x_k) $$
が成立する。 $\{m_j\}_{j \in J} \in T(W)$ はカバレッジの被覆族であり、 $P$ は $T$層であるため、被覆族による分離性(一意性)から、 $P(k)(x) = x_k$ が得られる。
この $x$ の一意性については、ステップ1の分離性より直ちに従う(すべての $k \in S$ について引き戻しが $x_k$ となる要素は一意である)。
よって $W(S)$ が示され、構造的帰納法によりすべての $S \in J(U)$ について層条件を満たす、すなわち $P \in \text{Sh}(\mathcal{C}, J)$ であることが完全に証明された。
参考文献
- A. M. Gleason, "Projective topological spaces", Illinois J. Math., 2 (1958), pp. 482–489. Link to Project Euclid
- P. T. Johnstone, Sketches of an Elephant: A Topos Theory Compendium, Volume 1, Oxford Logic Guides, Oxford University Press, 2002. Link to Oxford University Press